アメリカを代表する観光地、グランドキャニオン。
もちろん最大の見どころは目の前に広がる巨大な渓谷ですが、鉄道好きならぜひ立ち寄っておきたい場所があります。
それが、グランドキャニオン国立公園のサウスリムにあるGrand Canyon Railway Depot(グランドキャニオン駅)です。
今回、グランドキャニオンを訪れた際に駅にも立ち寄ってみました。
目の前に現れたのは、近代的なターミナルとはまったく違う、丸太を生かした歴史を感じさせる駅舎。
しかも単なる保存駅舎ではありません。
1910年に完成した建物が、現在もGrand Canyon Railwayの列車が発着する現役の駅として使われています。
「GRAND CANYON」の文字が迎える歴史的駅舎
まず見てほしいのが駅舎です。
正面上部には大きく、
GRAND CANYON
の文字。
茶色を基調としたログ造りの建物に、緑色の窓枠がアクセントになっています。
駅前にはベンチが並び、そのすぐ前には線路と木を使ったホームが延びています。
アメリカの昔の鉄道駅を映画のセットとして再現したようにも見えますが、これは本物。
米国国立公園局によると、現在のGrand Canyon Depotは1909年に着工し、1910年に完成しました。
建築家Francis W. Wilsonによって設計された駅舎で、ログ造りを特徴とする非常に貴重な鉄道建築です。
米国国立公園局 Grand Canyon Train Depot
アメリカでも極めて珍しい「現役のログ造り駅舎」
この駅が鉄道ファン目線で興味深いのは、その希少性です。
国立公園局によれば、アメリカ国内でログ造りの鉄道駅は14駅建設されましたが、現存しているのは3駅。
さらにGrand Canyon Depotは、丸太を主要な構造材として建てられ、現在も鉄道駅として使用されている唯一の駅とされています。
100年以上前の駅舎を保存しているだけでも十分価値がありますが、そこへ今も旅客列車がやって来る。
この「保存建築ではなく現役駅」というところに惹かれます。
グランドキャニオンに鉄道がやって来たのは1901年
駅の横には「Grand Canyon Depot」と題された解説板が設置されていました。
そこには昔の蒸気機関車や駅、列車が並ぶ写真とともに、この鉄道の歴史が紹介されています。
グランドキャニオンに鉄道が到達したのは1901年。
鉄道が開通する以前は、現在のように気軽にアクセスできる場所ではありませんでした。
鉄道の開通によって観光客がグランドキャニオンへ入りやすくなり、その後ホテルなども整備されていきます。
つまり鉄道は単なる移動手段ではなく、グランドキャニオンを世界的観光地へ発展させていくうえで重要な役割を果たした存在でもありました。
1968年に一度は旅客列車が姿を消した
しかし、自動車の普及によって鉄道を取り巻く環境は大きく変化します。
現地の解説板にも、
「Finally, in 1968, the passenger service and depot closed.」
とあり、1968年に旅客サービスが終了したことが紹介されています。
そのまま鉄道の歴史が終わっていても不思議ではありませんでした。
ところがGrand Canyon Railwayは復活します。
1989年にWilliamsからの旅客列車が復活し、翌1990年にはGrand Canyon Depotへの運行も再開されました。
現在もWilliamsとグランドキャニオンを結ぶ観光鉄道として運行されています。
そして目の前にGrand Canyon Railway!
今回の訪問で何よりうれしかったのが、実際に列車を見ることができたことです。
歴史ある駅舎の横に、銀色を基調とした長い編成が停車していました。
車体側面には大きく、
GRAND CANYON
の文字。
写真の車両には「CHIEF」と書かれた車両も確認できます。
さらに編成を眺めていくと、屋根部分まで大きな窓が設けられたドームタイプの車両も連結されています。
日本の鉄道とはまったく違う車体断面と長大な編成。
これだけでも鉄道好きには見応えがあります。
そして、その列車のすぐ横に100年以上前の木造駅舎が建っているという組み合わせがたまりません。
線路と木製ホームもじっくり見てみる
駅舎だけではなく、足元にも注目です。
写真を見ると、駅舎前には複数の線路があり、その周囲には木材を敷き詰めた部分が残っています。
日本の駅で一般的に見るコンクリート製ホームとはかなり違う風景です。
駅舎、線路、木を多用したホーム、そして銀色の客車。
一枚の写真の中に、新旧のアメリカ鉄道を感じられる要素が詰まっています。
列車が停車していない時間帯であっても、鉄道好きなら駅周辺を歩くだけで楽しめそうです。
駅舎には「National Historic Landmark」のプレートも
建物には、
GRAND CANYON RAILWAY DEPOT
NATIONAL HISTORIC LANDMARK
と刻まれたプレートも取り付けられていました。
下部には「1987」とあります。
Grand Canyon Depotは1987年にNational Historic Landmarkに指定されています。
単に「古い駅が残っている」のではなく、アメリカの歴史上重要な建造物として評価されている駅なのです。
100年以上前の建物を眺めながら、その目の前を現役の旅客列車が発着する。
鉄道遺産と現役鉄道を同時に楽しめるところが、この駅最大の魅力だと思います。
グランドキャニオンのすぐそばまで列車で来られる
Grand Canyon Railwayは、アリゾナ州WilliamsからGrand Canyon Depotまでを結んでいます。
そして驚くのが駅の立地。
Grand Canyon Depotはサウスリムから約200ヤード、約180mのところにあります。
つまりWilliamsから列車に乗り、歴史あるGrand Canyon Depotに降り立ち、そこから歩いてグランドキャニオンへ向かうことができます。
車で国立公園へ入るのとはまったく違う旅になりそうです。
1901年に鉄道が開通した頃の旅行者たちも、列車を降りてこの場所からグランドキャニオンへ向かったのでしょう。
そう考えると、単なる観光列車ではなく、100年以上前のグランドキャニオンへの旅を現代に体験できる鉄道ともいえそうです。
今度はWilliamsから列車で来てみたい
今回はGrand Canyon Railwayに乗車したのではなく、グランドキャニオン観光中にGrand Canyon Depotへ立ち寄りました。
それでも鉄道好きとしてはかなり楽しめる場所でした。
1910年完成の駅舎。
National Historic Landmarkのプレート。
木を多用したホーム。
そして、その横に停車するGrand Canyon Railwayの長い編成。
グランドキャニオンというとどうしても「絶景を見る場所」という印象が先行しますが、実はこれほど興味深い鉄道スポットもあります。
そして駅を見てしまうと、次にやってみたくなることは一つ。
WilliamsからGrand Canyon Railwayに乗って、この駅へ列車で到着してみたい。
車で駅を訪れるのと、列車の車窓からこの歴史ある駅舎が見えてくるのとでは、きっと印象も大きく違うはずです。
グランドキャニオンを再訪する理由が、また一つ増えてしまいました。
というわけで、よい「鉄分」を!












